── 心の術にこそ、忍びの真髄がある ──
現代社会は、情報と感情があふれかえり、目には見えぬ“心の疲れ”を多くの人が抱えています。
そんな時代だからこそ、かつて“忍び”と呼ばれた者たちの知恵が、新たな光を放ちます。
忍者は決して戦いだけの達人ではありません。『万川集海』などの忍術書には、敵を欺く術以上に「心を整える技」が数多く記されています。
過酷な任務を遂行する忍びにとって、磨くべきは肉体のみならず、“折れぬ心”でありました。
そこに現代でいう「レジリエンス(心のしなやかさ)」と通じる智慧があります。
「風が吹こうとも、柳は折れぬ。ただ、しなるのみ。」
レジリエンスとは何か
心理学の世界で「レジリエンス」とは、困難やストレスに直面しても、折れることなく立ち直る力を指します。
たとえば、どんなに強く根を張る大木でも、突風にさらされれば折れてしまうことがあります。
一方、柳の枝は風を受けても、しなやかにしなることで折れずにやり過ごします。
人の心も同じです。
無理に耐え抜くのではなく、流れを受け入れて柔らかくしなうこと。
それが、忍びのように「倒れぬ心」を育む極意です。
忍者に学ぶ、3つのレジリエンス術
では、現代に生きる私たちは、忍者の教えをどう活かせばよいのでしょうか?
ここでは、忍びの実践から導かれた“3つの心の術”をご紹介します。
一、心の変化に気づく術(じゅつ)
まずは、自分の心の揺れに気づくことから。
怒り、不安、焦り――それらはどこから来るのか。感情をただ反応するのではなく、静かに観察すること。
「自分の心が揺れている」と気づけたとき、整える術もまた動き出します。
二、感情を否定せず、受け流す術
怒りを抑えつけたり、悲しみを隠したりせず、
「今の自分にはこの感情がある」と、そのまま認めること。
そして、深く呼吸し、静かに瞑想する。
自然の中で心を整える。
「水は澄んだとき、底が見える。心もまた然り。」
感情が澄めば、次にとるべき行動も自然と見えてきます。
三、自然から学ぶ在り方の術
自然は争わず、ただ受け入れて、かたちを変えて存在し続けます。
風が吹けば揺れ、雨が降れば濡れ、それでもまた元に戻る。
柳のように、風に身を任せながらも、決して折れぬ柔らかさ。
忙しない現代だからこそ、一度立ち止まり、五感で自然を感じてみる。
そこに「心の在り方」のヒントが眠っています。
忍びの極意は、“耐える強さ”にあらず
真のレジリエンスとは、力でねじ伏せるような強さではなく、
しなやかに受け流しながらも、決して折れない柔らかさにあります。
心が折れない者とは、強いのではなく、しなやかなのである。
流れに抗わず、けれど自分を見失わず。
柳のごとく、風に揺れながらも立ち続ける――
そこに、現代人が学ぶべき忍者の“心の技術”があるのです。
健康経営アドバイザー 矢田兼久